編集部コラム・ストロベリーフィズ色の男の子

ハッと目が覚めるほど真っ赤に輝くイチゴがたくさん詰まったグラスは、薔薇の花束のように見えた。思いっきり頬張ると甘酸っぱい。そしてごくりと飲み込む。そのとき、私は喉の奥で弾ける小さくて熱い火花のようなものを感じたのだった。

そのバーには1週間前に一度来たことがあった。ある水曜日の仕事終わり、会社から最寄駅に着いて外に出ると、突然の大雨が降っていた。駅の出口で雨宿りする人たちに混ざって途方に暮れていると、向かいのビルの2階にあるバーのようなお店がちょうどオープンするのが見えた。私は引っ越したばかりのタイミングで、仕事終わりにふらっと寄れそうな近所の飲み屋さんを探しているところだったので、雨宿りも兼ねて行ってみることに。

重い扉を開けて店内に入ると、流行りの音楽が流れていた。想像していたよりカジュアルで、雰囲気はバーというよりもパブに近い。男性スタッフが2人。開店直後だったこともあり、お客さんは私だけ。ぼそぼそと小さい声で話す私のために、スタッフの若い男の子がさりげなくBGMの音量を下げてくれたり、口下手な私でも話しやすいような話題をふってくれたり。やはりバーテンダーという職業の方には恐れ入る。飲み終わって外に出ると雨はやんでいた。とても居心地のいいお店を見つけた。私は嬉しくて浮かれ気分で家に帰った。

そして1週間後、仕事終わりに再びその重い扉を開けると、この前もいたスタッフの男の子が「おかえりなさい」と迎えてくれた。彼がレシピを考えたという4月限定のストロベリーフィズをおすすめされて注文。カットされたイチゴがこれでもかというほど入ったジンベースのカクテルだ。それ以降、私は週に1、2回お店に行き、ストロベリーフィズを注文するようになった。作ってくれるのは毎回その男の子。私より2つ年下なのに、すごくしっかりしている。カクテル作りの経験はほとんどないらしいが、彼の作るお酒はどれも美味しい。

ストロベリーフィズを何度か注文するうちに、グラスのふちに大きなイチゴが飾られるようになった。「かなえさんだけ特別に」彼はそう言ったが、バーテンダーの言葉を真に受けるほどアホではない。きっと彼は私の気分をよくさせてお酒をたくさん飲ませようとしているのだ。そう思いながらも私は熱心にストロベリーフィズを注文し続けた。

そして4月は瞬く間に過ぎ去り、ストロベリーフィズがメニューから消えた。私はそのお店で違うカクテルを注文するようになった。彼の作るお酒は本当に美味しい。でも、やはりあの真っ赤なカクテルが飲めないのは少し寂しい。そう思っていたところ、突然スタッフの彼からデートのお誘いがあった。びっくり仰天!グラスのふちに飾られていたイチゴには、私が考えていたよりももっと深くて美しい意味があったのだ。「一回2人でご飯行きませんか?」そう言った彼の顔は、ストロベリーフィズのように赤く染まっていた。

かなえ

かなえ

1999年生まれ、岡山県出身。映画・ドラマなどの最新エンタメ情報サイトで企画・編集・ライティングを経験した後、神奈川県小田原市へ移り住む。すべての映画と、ほとんどの音楽と、ほとんどの本と、すべてのお酒が好き。星が綺麗な冬の夜も好き。