猟師・宮本亮さん 〜ジビエアップサイクルブランドで狩猟の価値を伝え、鳥獣被害に立ち向かう〜

近年耳にする機会が増えてきた“ジビエ”だが、その背景には猟師さんたちの熱心な取り組みがある。農業、環境、経済など様々な分野で社会問題を引き起こしている鳥獣被害は、今や誰もが当事者として無視できない段階に入っている。その問題の根本と真正面から向き合っているのが猟師さんたちだ。

今回取材したのは、猟師としてジャパン・マルチハンターズ株式会社の解体処理施設責任者を務めながら、自身のアップサイクルブランド“Recovery and Reload”でジビエレザーや頭蓋骨などの活用事業と獣害対策事業を行う宮本亮さん。「命をいただくからには、最後まで無駄なく活用したい」と語る宮本さんは、現在の活動を通してどのような価値を生み出そうとしているのだろうか。

無駄なく価値として提供する事業

「もともと料理をやっていたんですが、コロナ禍の緊急事態宣言で会社が休業になって、時間ができてしまいました。そのときに、美味しいお肉ってどこで手に入るんだろうとか、解体するのってどういうことなんだろうという疑問が生まれました」

猟師になる以前は江ノ島の有名店でバリスタや料理人として働いていたという宮本さんは、料理の素材を突き詰めたいと考え、さっそく狩猟免許を取得。料理人から猟師の道へ進むことになる。

「神奈川県の西湘エリアで狩猟ができると聞いて、小田原のくくり罠捕獲グループで捕獲や解体の勉強をしました」

現在宮本さんが取り組んでいる事業について具体的にお話を伺った。まずはジビエ⾷材の製造・販売だ。宮本さんは捕れたものを解体場で解体し、お肉や毛皮、頭蓋骨などに分ける。精肉したお肉は小田原市内の飲食店を中心に卸し、その他の利用方法は出張料理やイベント出店でジビエ料理として美味しく調理している。

「小田原市内の取引先の方にその日にとれた背ロースがほしいと頼まれて、ちょうど鹿が捕れたので、その背ロースをすごく新鮮な状態で持って行って調理してもらいました。やっぱり近いと鮮度も抜群ですし、何よりもお客さんにその日捕れましたって言えるのが地産地消のいいところです。観光客の方の印象にも残ると思います」

さらに、宮本さんが力を入れているのは、ジビエレザーや骨などの副産物の活用だ。野生動物の命をいただくからには、普通なら捨てられてしまう肉以外の部分も活用し、長く大切に使える商品に生まれ変わらせたいと語る。

八木下農園で捕獲された猪の皮をレザーにして制作した名刺入れとキャッシュトレー/製作:Second Brave)

「毛皮はどうしても捨てられてしまうことが多いので、それを毛皮業者に出して活用しています。鹿の毛皮をディスプレイにしたり、ジビエレザーの小物を作ったり。さっき渡したキーケースとか名刺入れみたいなかんじです」

取材中に頂いた猪の皮を使ったキーケース

狩猟で向き合う深刻な有害鳥獣被害

狩猟を様々な事業として展開している宮本さんに、狩猟が担う社会的役割を伺った。

「野生動物が増えすぎている問題があります。その理由としては、猟師不足。猟師の高齢化などに伴って狩猟人口は減っています。狩猟って普通に生活しているとあまり馴染みがないんですよね」

狩猟人口が減少する一方で、猟師を志す人は多いという。狩猟ブームやキャンプブームの影響などで狩猟に興味を持つ人は増えつつあり、東京では狩猟免許の受験者が殺到するほどだ。しかし、狩猟の場所がなかったり仲間がいなかったりで長続きせず辞めてしまう人が多い。狩猟免許を持っている人の中で実際に活動しているのは、わずか半数ほどだと言われている。さらに、野生動物が増えすぎている原因は農業の問題にもあるという。

「耕作放棄地が増えすぎて、放棄された農作物を野生動物が食べに来ちゃうんです。耕作放棄地は動物にとって恰好の餌場で、隠れ家にもなっています」

野生動物による農業被害は深刻で、それによって農家さんのモチベーションが下がり農業から人が遠ざかる。そして野生動物がさらに増えていくという悪循環が続いているのが現状だという。また、鳥獣被害は農作物を食べられることだけではない。農家さんが猪と鉢合わせて襲われた事例も多い。鹿は山に植林した苗木をすぐ食べてしまい経済的な損害を出している。鹿が食べない植物のみが育ち、山の多様性も失われつつある。鹿の食害が深刻になると、土壌が緩んで大雨が降った際に土砂崩れが起こる危険性も高まる。

「全滅させるのはもちろんよくないんですが、ある程度バランスを取るために頭数を調節してあげることが必要なんです。そのためにこの活動をしている部分は大きいですね」

農家さんの被害を減らすために猟師が野生動物を捕る。その野生動物の肉を使ってくれる飲食店に卸す。宮本さんはそのサイクルが上手に循環していくことが理想だと語る。

「ゆくゆくは新人の猟師さんに自分の猟場を紹介するんじゃなくて、困っている農家さんを紹介したいです。捕ったものをうちの処理場に持ってきてもらえばお肉を還元することもできるので、農家さんにとっても猟師さんにとってもいいかなと思います。そうやって、猟師さんと農家さんのマッチングをするのが、将来的な目標のひとつです」

ジビエで小田原も狩猟も盛り上げる

猟師として命と向き合うには覚悟がいる。宮本さんもやはり野生動物を殺める瞬間は気分のいいものではないという。

「動物からしたら罠にかかっただけで相当なストレスだと思うので、殺めるときは苦しませないよう極力短いスパンでやることを念頭に置いています。僕は最初に鹿を見たとき、可愛いと思っちゃって。解体してお肉になってもまだ可哀想だと思ってしまうんです。でも、シェフが丁寧に調理してくれて、食べた人が美味しいと喜んでいるのを見ると、可哀想が美味しいに変わる。多くの人の見方がこういうふうに少し変わってくれるだけでも、やらないといけない仕事なのかなって思います」

宮本さんがこの仕事にやりがいを感じるのは、自分の解体スキルや経験値に伸び代を見つけたとき、そして何よりも、自分が捕獲した動物をお客さんが美味しそうに食べているときだという。命と向き合いながら鳥獣被害に対処しようとしている宮本さんは、狩猟の重要性を多くの人に伝えるためにジビエの普及にも取り組んでいる。

「有害鳥獣を駆除していますという言い方ではなく、鉄分やタンパク質が豊富で低カロリーな美味しいお肉ですと伝えた方が、受け入れてもらいやすいかなと思っています。ジビエやレザーなど生活に取り入れやすいものから入ってもらって、それが増えすぎてしまった野生動物のバランス保つことに繋がるんだと知ってほしいです」

近年では鹿の頭数増加に伴って、ジビエを扱う飲食店も全国的に増えてきた。普段野生動物を目にする機会の少ない小田原や東京などの首都圏でもジビエに対する認知が広がってきている。

「小田原ではまだまだジビエを知らない人も多いですが、お肉を使ってみたいという声も増えてきました。少しずつ取引先も増えてきて、広まっているのかなという実感はあります」

宮本さんの目標は、小田原で捕れるジビエを小田原の食材と一緒に調理して、小田原を丸ごと味わってもらうこと。それを県内外の人たちに発信することで、小田原を盛り上げると同時に、狩猟の重要性を伝えようとしているのだ。今後、宮本さんの活動は私たちの生活をこれまで以上に強く支えてくれるに違いない。

「小田原にはジビエ以外にも柑橘や野菜など豊富な食材があるので、ゆくゆくはシェフ向けの小田原生産者ツアーみたいなものを開いて、そこから取引が始まったりして。そういうふうに繋がっていける場を設けることが最終的な目標です。まずは来てもらうこと、知ってもらうこと、食べてもらうこと、使ってもらうことですね!」

かなえ

かなえ

1999年生まれ、岡山県出身。映画・ドラマなどの最新エンタメ情報サイトで企画・編集・ライティングを経験した後、神奈川県小田原市へ移り住む。すべての映画と、ほとんどの音楽と、ほとんどの本と、すべてのお酒が好き。星が綺麗な冬の夜も好き。

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