この美しい絵画を完成させるのはあなたです。どこからかそんな声が聞こえてきそうなお店「果実店canvas(カンヴァス)」のデザートは、色彩、構図、物語性、どれをとっても絵画のように美しい。そして、果実店canvasに訪れた人は、各々の空間を各々のやり方で彩ることができる。絵画は、美を生み出す人とその美を受け取る人の両者がいて初めて成り立つものだ。
吉祥寺駅より徒歩20分、三鷹駅より徒歩16分。閑静な住宅街の中にある果実店canvasは、旬の果物やデザートを提供するお洒落な果物屋さんだ。店主・佐藤圭太さんが市場で直接仕入れた果物は絶品で、独創的なパフェやサンドイッチも大人気。
今回は、美を生み出す人である佐藤さんにお店づくりやメニューづくりのこだわりを伺った。佐藤さんの思いや背景を知ることで、美を受け取るときの参考になるかもしれない。
和菓子職人から果物屋さんへ
「いちご大福はシンプルだからこそ素材ひとつひとつの味がダイレクトに伝わるので、美味しいいちごを使うことが1番のポイントだったんです」
果物屋さんになる以前は和菓子職人だった佐藤さん。和菓子では果物を使う機会が少なかったというが、いちご大福の製作をきっかけに果物と出会った佐藤さんは、その世界に魅了されていく。
「町の果物屋さんでいちごを探し回るうちに、果物屋さんの魅力に惹かれていきました。当時は果物の等級についても知らなかったし、八百屋さんと果物屋さんの違いもよくわかっていませんでした。でも、実際に等級が高い果物を食べるとすごく美味しかったんです」
果物屋さんの仕事に感銘を受けた佐藤さんは、いちご大福に合ういちごを信頼できる果物屋さんに選んでもらった。
「お任せできる果物屋さんに出会えたのは大きいです。いちご大福を仕入れた果物屋さんに果物のことを一から教えてもらったり、一緒に市場に通ったりして、少しずつ果物のことを覚えていきました」
その後もフルーツパーラーや八百屋さんで働き、果物のことを勉強していった佐藤さん。現在はその経験を活かし、自ら市場に出向いて旬の果物を見極めながら仕入れを行っている。
「その日その日で果物の状態は変わるので、しっかりと見ることが大事です。果物屋さんや八百屋さん、フルーツパーラーで教えてもらったことを踏まえて経験を積み、だんだん見極めができるようになりました」
そんな佐藤さんが大事にしているのは、果物の旬。果実店canvasが提供する旬の果物の美味しさはお客さんからも評判だ。
「一番意識しているのは、旬で物事を動かすこと。果物が1番いい状態のときに提供することを最優先にしています」
空間をゆっくり楽しむお店づくり
デザートや料理は注文を受けてからひとつずつ丁寧に作って提供するという佐藤さん。基本的に作り置きはせず、作りたてのものを味わってもらう。
「提供するまでに時間がかかるので、待つ時間がつまらなくならないように工夫しています。来ていただいた方にはゆっくりとお店を使ってほしいです」
果実店canvasのメニュー表には、提供までの時間の過ごし方が記載されている。「果物の段ボールで絵を描く」「果物の積み木で遊ぶ」「隣のアンティーク雑貨に遊びに行く」「フリーペーパーを読む」など、遊び心満載の提案だ。
また、果実店canvasの店内でもうひとつの特徴的なのは、席に名前がつけられていること。「花の絵の下の椅子」「デザートと向き合う椅子」「囲われた空間の椅子」「canvasの下の椅子」など、可愛らしい席の名前が書かれた小さなキャンバスが置かれている。公式LINEから席の予約もできるので、気になる席を事前に調べておくのもおすすめだ。
「スペースを広く使って、同じお店の中でも別々の空間として捉えてもらえるようにしています。デザートを食べに来るということを特別な体験にしてもらいたいので、空間づくりにはこだわっています」
アンティーク調で揃えられた2階席には「canvasの中の画廊」というギャラリーも併設されていて、佐藤さんがセレクトした食器などが置かれている。それぞれの階で違う時間の流れを楽しめるので、色々な席に座ってみたくなる。
個性を活かした自由なメニュー
「canvasの下の椅子」と名付けられた席の壁に飾られているのは、店名の由来でもある真っ白なキャンバス。白いキャンバスに描くようにデザートをデザインしていきたいと語る佐藤さん。果実店canvasにはその名の通り自由な発想のメニューがとても多い。
「和梨とお茶のかき氷」はクリームチーズや抹茶くず餅などが使われている和風かき氷。「秋の足音を聴く愛知県産無花果とゴルゴンゾーラのパフェ」には、無花果のレバーパテ添え、無花果のゴルゴンゾーラブリュレ、ドライ無花果の赤ワインジュレなど、様々な方法で調理された無花果が使われている。
「デザート以外の料理や和菓子などからヒントをもらうことが多いですね」
もともと和菓子職人だった佐藤さんは、和菓子のように繊細かつ形式にとらわれない挑戦的なデザートづくりが得意。
「空間の活かし方は和菓子で学びました。ストーリー性も大事にしているので、食べるときはデザートのストーリーまでゆっくり楽しんでもらいたいです。あとは色合いを見て決めている部分が多いです。和菓子でも色合いは大事な要素なんです」
果実店canvasでは、街中でも見かける機会の少ないフルーツパスタを食べることができる。デザートのイメージが強く、あまり食事に取り入れることがない果物だが、果物を知り尽くしている佐藤さんだからこそパスタと果物を完璧に融合させることができる。
「果物は甘いものが多いので、パスタと合わせるときは酸味と塩味のバランスを少しずつ調整して作ります。パスタは色々な材料を使うので、フルーツサンドとかに比べると難しいんですが、試作しながらお客様に楽しんでもらえるようなメニューを作っています」
また、果実店canvasの特徴のひとつが、白苺やこだま西瓜などの珍しい果物を使っていること。ひとつひとつが個性豊かな果物。佐藤さんはその個性を最大限に活かしたメニューを作る。
「珍しい果物を見ると使いたくなるんです。面白いかなと思って(笑)」
お店のポップにも生産地などの情報がしっかりと書かれ、SNSでも販売している果物やデザートメニューの詳細を発信している。
「自分が苦労して仕入れているからこそ伝えたいなと思うんです。いいものを仕入れて提供するというのは、もともと町の果物屋さんが何気なくやっていたこと。それをしっかり伝えることが大事だとと思います」
町の果物屋さんが減っていく昨今。味、栄養、彩り…様々な魅力を持つ果物だが、まだまだ日本人への馴染みは薄い。そんな果物を生活の中に落とし込んでくれる果物屋さんは、とても貴重な存在だ。
「値段が高いという印象だけで果物屋さんがなくなっています。果物屋さんの魅力をひとつひとつ細分化・再構築して伝えることで、果物屋さんの価値を知ってもらいたいです」
果物屋さんの在り方を考え、その魅力を多くの人に伝えようとする佐藤さんの目標を最後に伺った。
「お店の魅力、果物の魅力、果物屋さんの魅力を伝えて、少しずつ売り上げを伸ばしていけたらいいなと思います。そのためにもっとお客様に喜んでもらえるメニューを作れたらいいですね」
Information
果実店canvas
住所:東京都武蔵野市吉祥寺北町4-1-1
営業時間:12:00〜18:00
定休日:水曜日・木曜日(不定休あり)
席数:30席
HP:https://www.fruit-canvas.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/fruitscanvas/