なぜ日本は家族労働が主体で危険の多い劣悪な土地に開墾してきたのか【日本と海外の違い】

「土地条件」「労働」「経営形態」「栽培面積」をはじめとして、日本の果樹栽培の条件には外国と違った面が多くあります。その背景を調べてみると、日本独自の果物観や、歴史的背景を垣間見ることができます。

レモン産地の広島県、みかん産地の愛媛県などを歩いてみれば、想像以上の急斜面で作業する生産者たちの姿が見られます。なぜ日本は山を開墾して果樹を植えてきたのか。そして、どうして外観重視で高品質な果実を栽培してきたのか。その秘密を少しだけ覗いてみましょう。

コメ優先、果樹はその次だから急傾斜地

東京ドーム〇〇個分に匹敵する壮大な農園で、仕事仲間とワインを飲む姿を一度は外国映画のワンシーンで観たことがあるのではないでしょうか。レモン畑やぶどう畑など、どの果樹をみても、そのほとんどが広大な農地で、見渡す限りの果樹が広がっています。

しかしこれはアメリカやヨーロッパなどの大規模農業の特徴で、日本の果樹が育てられている場所と大きな違いがあります。

日本では昔から、条件の良いところ(平たんで広大なところ等)ではまず、コメを作ることが考えられてきたため、みかんやレモンをはじめとした果樹は、地形や土壌条件に恵まれないところで栽培されてきました。他の作物では栽培が困難な急傾斜地でも、「果樹ならつくれる」「しかも高い収益を上げられる」ということで、土地利用上の重要な役割を担ってきました。

急斜面の畑では資材を運ぶモノレールが重宝(神奈川県・小田原市)

欧米は良い土地条件でなければ成功しない…

一方で欧米では、映画のシーンでも観てわかるように、果樹はかなり土地条件の良いところで育てられ、大規模に行われる農業が一般的です。果樹栽培は雇用労力を主とする企業的経営で営まわれる農業が普通なため、日本のような不利な土地条件では、決して成功しないとされています。

少ない労働力で多くの農産物を生産する効率の良さが求められ、だからこそ安い果物をたくさん生産することで儲けることができるのですが、悪い土地条件では、大型の機械で管理することができません。所要労働時間は日本の1/5程度と言われており、時間をかけて生産していけば、採算が取れないのはいうまでもありません。

日本は家族労力が中心

日本の果樹栽培の経営形態では、家族労力が主体であるため、不利な土地条件や危険を伴う作業でも、家族労力を多く投入することで克服してきました。

外観仕上げのため袋掛けされた柑橘(カラマンダリン)

日本の果樹栽培で必要な主な手作業は、剪定、摘果(間引き)、袋かけ、収穫などと、欧米や諸外国と比べると手作業が多いのが特徴です。高品質の果樹栽培のためには、大変な労力がかかるので、大部分の作業を家族労力で賄われなければ経営が成り立ちません。

果物観のそもそもの違い

西洋では昔から果物はビタミン、食物繊維などの重要な栄養素の供給源として日常に欠かせない食べものでありました。食卓に果物があるのが日常である西洋に対し、日本では野菜がその役割を果たし、果物はむしろ嗜好品としての性格が強く、日本独自の果物観を持っています。

外観を大事にする日本の食べ物に対する傾向はありますが、必要以上に見かけの立派な果実が店頭に並ぶこともあります。しかしだからと言って、世界の国々と比較し、果物の意識が変わることだけが良いとは言い切れません。

果物の大きさや外観が重要でなくなったら、外国産の果物で溢れ、生産費の高い日本の果物は太刀打ちできない可能性も高まってきます。悪い土地条件の上、高く売れない果物という認識が定着してしまうと、生産者の減少にも拍車をかけることにつながってしまいます。品種の多様性による味わいの違い、高品質の果物の魅力を消費者が楽しむことが大切なのかもしれません。

内山 恵太

内山 恵太

2000年生まれ、北海道出身。広告代理店で制作業務を担当した後、フリーランスのデザイナーとして独立。現在は、デザイナーとして活動する傍ら、神奈川県小田原市の150年以上の歴史を持つ柑橘農園の研修生として農業を学んでいる。果物が大好きで、特に柑橘が好き。おうちにBarのような酒棚をつくるほど、カクテルを作るのがすき。

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