シチリアやアメリカのカルフォルニアなど、暖かいところだけで栽培されているイメージの強い柑橘ですが、実のところ柑橘産地は日本各地に存在しています。温州みかんをはじめ、多くの柑橘類の栽培に適しているのは温暖な地域(年間平均気温が15度以上かつ、冬の最低気温がー3度以下にならない)ですが、寒さに強い柚子などの品種を含めると、柑橘の産地は岩手県までに及びます。
戦前から和歌山県・愛媛県・静岡県が日本の柑橘界を牽引していますが、地元企業や行政の連携による地域ブランド化の動きや、地球温暖化などの気候変動、時代の変化によって、今後勢力図も入れ替わることが予想されています。今回の記事では、特色ある柑橘産地とその特徴を覗いてみましょう。
愛媛県
柑橘王国の愛媛県。温州みかんの収穫量では和歌山県に次ぐ第2位ですが、柑橘類全体の収穫量は、日本1位でトップの座を守り続けています。瀬戸内海の島々、中予、南予地方を中心に、急峻な地形と温暖な気候を生かした昔ながらの産地が広がります。
新品種開発のトップランナー
年間1000個以上の種から新品種育成の研究がなされる愛媛県。多品種栽培が特徴で、その数40種類以上と日本一の品種数を誇ります。
また、「紅まどんな」や「甘平(かんぺい)」をはじめとした愛媛県内でしか栽培することができないオリジナル品種も多く、日本の柑橘産地の中で大きな存在感を示しています。
消費者のニーズに合った次世代の柑橘を世に送り出し、さまざまな品種を発表しているので、更なる期待を集めています。
和歌山県
柑橘生産の始まりは室町時代末期とも言われる長い歴史を持つ和歌山県。温州みかんの収穫量は日本一を誇る日本のみかん供給を支える代表産地です。「有田みかん」ブランドに代表される温州みかんの栽培が盛んで、昔から多くの人々に愛される特産品として根付いてきました。「有田みかん」産地の中心地帯がある紀中・有田地区は日本柑橘界を引っ張るみかんどころです。
和歌山むき
温州みかんの食べ方は、和歌山むきという「花びらのようにむくのではなく、果実を外皮ごと4分割する」むき方が県民の常識。手が汚れることなくむくことができるこのむき方は、地元民のメジャーなむき方となっています。
静岡県
和歌山県・愛媛県と並び戦前からみかん栽培が盛んな古参産地・静岡県。古くより柑橘が育つ土地・気象条件に恵まれていて、柑橘収穫量は全国3位を誇ります。また、静岡市で発見された「青島温州」を代表に、普通・晩生温州みかんに関しては、その出荷量は日本一でもあります。
温州みかんの需要が根強い年末にかけて、柑橘市場で絶大な存在感を示しています。
家康手植えの蜜柑
県の天然記念物に指定されている駿府城公園の家康手植えの蜜柑。言い伝えによると、現在の和歌山県から献上された鉢植えのみかんを、徳川家康公が駿府城に御在城の折、駿府城の天守台辺りに自ら植えたものと言われています。
熊本県
その昔朝鮮半島との交易の窓口であったことから「小みかん」が伝わり、日本の柑橘栽培の端緒になったと言われる熊本県。中国から伝来した「小みかん」の量産体制が八代群高田村(肥後の国)で築かれたことで、現和歌山県に移植されて栽培が普及したとされています。※諸説あり
また、和製グレープフルーツと言われる「河内晩柑」は熊本県発祥。全国4位の柑橘収穫量を誇るだけでなく、黄色系中晩柑の栽培も盛んで、実力派の産地として知られています。
デコポン®
国の機関で育成された当初、形の歪さから見向きもされなかった不知火(しらぬい)を見出し、「デコポン」のブランド名で全国的にヒットさせたのが熊本県。デコポンはJA熊本果実連が所有する登録商標で、糖度・酸度の基準を満たしていても、許可を受けたJAしか商標を使用できません。JAを通していないものや、個人の農家さんが出荷するものは品種名の不知火として店頭に並んでいます。
広島県
温暖な気候を生かして多様な柑橘が栽培される広島県。中でも広島県のレモンの生産量は日本一。レモンの産地として古くより名を馳せてきました。1964年の輸入自由化の際には大打撃を受けましたが、現在は国産レモンのニーズも大きく、再び注目を集めています。
瀬戸内レモン
最近、広島駅や県内の観光スポットなどには、レモンを使ったお土産品がズラリと並んでいます。広島市が認定する「ザ・広島ブランド」の第4回認定産品にも広島レモンが認定されました。
レモンの生産だけでなく、レモンを使ったジュースや菓子などの加工業も盛んで、広島の特産品として、ブランドを確立しています。
神奈川県
西湘地区(小田原市近辺)を中心に広がる山地は、かつてから東京で食べられるみかんの台所でした。神奈川県を代表する柑橘産地小田原市は、都心からアクセス30分という場所にあり、関東圏への出荷が他の代表的な柑橘産地と比べて容易なため、東京のレストランでは小田原産の鮮度が良くいい条件の柑橘を使ったメニューがよく見られます。
湘南ゴールドと神奈川県
「湘南ゴールド」は神奈川県で開発された神奈川県でしか生産していない希少な柑橘。神奈川県はかつて、みかんで潤う日本有数の「みかん大国」でしたが、他県産のみかんの人気に押されるなどして、生産量は急激に減少していくことに。そこで、2003年に品種登録された湘南ゴールドのブランド化を進め、オレンジ色系品種が中心の他産地とは一味違う路線で存在感を示しています。
愛知県
全国屈指の歴史あるハウスみかんの産地である愛知県。1969年(昭和44年)に全国で先駆けてハウスみかんの栽培が始まり、今もなおハウスみかんの産地として存在感を出しています。温州みかんの旬は冬ですが、ハウス栽培の技術を導入し、露地みかんの出荷と温室みかん(ハウス)を合わせて、一年中消費者に美味しいみかんを供給しています。
ハウスみかんの「蒲郡ブランド」
また、特許庁が認可する地域団体商標(地域ブランド)に、「蒲郡みかん」が県内農産物で初めて登録されたこともあり、夏の高級果実として百貨店や果物専門店の人気商品となっています。
高知県
全国的にはゆず(全国生産量1位)や文旦、小夏などの産地で知られている高知県ですが、特筆すべきは「食材としての柑橘」が人々の暮らしに根付いてることです。温州みかんなどの生食用の柑橘グループと比べ、香酸柑橘という分野の知名度は低い現状がありますが、高知県は数十種類以上の柑橘を、果皮、果汁共に食用として料理に添えたり、調味料、薬味としても使い分けたり、他の地域にはない高知ならではの豊かな食文化が根付いています。
酢みかん文化
柚子、ブシュカン、直七、ダイダイ…果実を食するのではなく、果汁の酸味や果皮の香りを楽しむ柑橘類のことを土佐の高知では総称して「酢(す)みかん」と呼びます。
高知県には多くの酢みかんがありますが、1番有名で定番なのは柚子。果汁は料理やお酒に、皮は佃煮やジャムや柚子味噌に、種は化粧水にと、柑橘を様々な用途で使う文化が根付いています。