#3 矢郷農園・矢郷史郎さん〜農業の楽しさを次の世代に伝えるために〜

矢郷農園の代表・矢郷史郎さんを見ていると、「ユーモア(Humour)の語源はヒューマン(Human)である」という説を信じずにはいられない。笑いながら太陽の下で手を動かす。それこそが取り戻すべき働き方のひとつであるようにも思えてくる。

小田原市石橋地区でレモン、みかん、キウイフルーツなどを生産している矢郷農園。現在は矢郷史郎さんのほかに、ベテランの高橋和幸さんと、若手の中津川翔さんが働いている。

(写真左:高橋和幸さん、写真中央:矢郷史郎さん、写真右:中津川翔さん) 

奥さんの実家が営んでいた農園を引き継いだ矢郷史郎さん。好きなジョジョのキャラクターはブローノ・ブチャラティ。農業の堅苦しいイメージを払拭すべく、様々な取り組みをしている。「農業の楽しさを次の世代へ伝えたい。覚悟はいいか?俺はできてる。ただし、ユーモアは忘れずに!」今回はそんな矢郷史郎さんを訪ね、レモンの収穫のお手伝いをしながら農業についての想いをたっぷりと伺った。

農家を継ぐきっかけと決断

——まず、就農する決断をしたときのことを教えてください。

僕の奥さんの父が農業を辞めるという話を聞いて、「もったいないな」と思ったのが最初に就農を考えたきっかけですね。お義父さんが作っていたみかんは美味しかったので。

それまでは兄がやっているラーメン屋で13年ほど働いていました。でも、東日本大震災が起こって、計画停電などの影響で色々な飲食店が追いやられてしまったんですよ。兄のラーメン屋も経営が傾いてしまって、そのときに一度自分の身の振り方を考えました。ちょうどその頃に子供も生まれて、子供に継がせてあげられるものを選択肢のひとつとして残したいなと思ったんです。

すぐにお義父さんに農園を継ぎたいと相談して、その翌月くらいには仕事を辞めて、農業をお義父さんに教えてもらいながら身につけていきました。

——初めての農業で大変だったことはありますか?

農業は未知の仕事だったので、全部が大変でした。体の使い方も全く違うし、草刈りしたり肥料を撒いたり、全部めちゃくちゃ大変なんですけど、面白いなとも思いました。景色もすごく綺麗だしね。

それで、気がつくと管理している農地がお義父さんの代に比べると10倍くらいに増えていました。

——すごい! どうして農地を増やしているんですか??

近隣の方からうちの畑も管理してほしいという声をたくさんいただいて。管理できるだろうと思って、どんどん土地を借りていきました。ベテランの高橋さんが矢郷農園に入ってきてくれて作業効率も格段に上がったので、管理できていますね。

(高橋和幸さん)

農業に対してできること

——この辺りの荒れている土地は、もともと畑だったところですか?

そうです。この辺りは全部耕作されていた土地で、みかん畑があったはずなんです。農家さんたちの高齢化で管理できなくなったり林業に転換したりという場所が多いですね。

——矢郷さんが考える小田原の農業の課題はどんなところですか?

小田原は基本的に大規模農業ができないんです。段々畑が多い中山間地域で、大型のトラクターなどが入れないんですね。しかも、小さい土地を持っている地主さんが集まってできている地域で、農地の貸し借りが複雑なんです。農業をやりたいという人がいても、どこに頼めばいいかわからないんですよね。

——畑を借りるのも大変なんですね。

でも、外部から来た僕を優しく受け入れてくれたこの地域の人たちにすごく感謝しています。だから恩返しも兼ねて、どうにかして畑を維持していきたいという気持ちがめちゃくちゃあるんです。僕がここで農業をやり続けている一番の理由はそれですね。

「山を綺麗な状態のまま次の世代に残す」というのが僕の中の大きなテーマで、そのために農地を農地として維持することはとても大事なんです。農地を維持したいという思いがあるので、レモンを選んだんですよ。レモンは基本的に鳥獣被害に合わないので、維持しやすいんです。

農業に触れるきっかけづくり

——高校の地域活動やインターンなどの受け入れ、障害者施設との連携などの取り組みをしている理由も、「次の世代に残したい」という想いがあるからですか?

そうですね。僕は農業ってすごい魅力的な仕事だと思っているんですけど、やっぱり親や親戚などの身近な人が農家をやっていないと、農業に入る機会はほとんどないと思っていて。高齢の農家さんが辞めてしまうことは止められないんですが、若い世代の人が入ってくれば、農地や山は保全できるんです。じゃあどうやって若い世代の人を入れようかと考えると、職場体験や地域活動で来た中高生、農業に興味を持ってくれている大学生などに、農業って面白いなと思ってもらうことが大事だと思ったんです。そういう体験を通してちょっとでも農業を身近に感じてもらい、彼らが就職するときに農業が選択肢のひとつになるようにしたくて、受け入れています。矢郷農園に就職してくれた21歳の中津川くんは、高校の課外活動がきっかけで出会って、「こんなに楽しい大人いるんだ」と思ってくれて、農業アカデミーで修行したあとうちに就職してくれたんです。

(中津川翔さん)

農福連携(農業と福祉の連携)にも取り組んでいて、農園に来てくれた人とストレスの逃し方やコントロールの仕方を話し合いながら作業しています。みんな楽しいって言ってくれて、喜んで来てくれます。そうやってみんなで農業を盛り上げていけたらいいですね。

——若い世代の人にとっても農業について気軽に聞ける場所があるのは心強いと思います。

新規就農も簡単にはできないんですよね。まず、作業所や冷蔵庫や農機具が必要になるので、そこが大きなハードルです。だから、先輩の農家さんが使っている物を無料で貸してあげるような仕組みでやっていかないと挫折してしまう人も多いと思います。要領よくやっていける人もいますが、100人いたら5人ぐらいでしょうね。でも、もともとやりたい人は100人くらいいるんですよ。その全員が農業を続けられるように、色々な活動をしています。

様々な農業の形

——現在は新規就農者のためにどのような活動をされていますか?

僕は「西湘うみかぜふぁーむ」という団体の代表をやっていて、農業を始めたい人からよく相談がくるんですけど、みんな口を揃えて言うのが「借りられる農地がない」ということ。でも、地元の農家さんからしたら農地は手に余るほどあるはずなんです。それは結局、新規就農者が地元の農家さんを知らないというだけなんですよね。だから異業種交流会を開いて、新規就農者と地元の農家さんをマッチングしています。その異業種交流会に地域の行政の人や飲食店の人も呼んで、若手の農業者と地域の繋がりを作ろうとしています。

https://umikaze.farm/

——若い世代の新規就農者に伝えたいことはありますか?

外部の人と交流するのがいいと思います。味方になってくれる人が絶対いるので。特に若い人や好奇心旺盛な人は、やりたいことがけっこう変わるんです。そりゃそうですよね。もう、大人でもグラグラなんで。だから若いうちは臨機応変に動いて、色々な人と出会うのがいいかなと思います。

——最初からやりたいことが定まらなくていいというのは新鮮な意見です。

農業は正解がわかりづらい職業なんですよ。農家さんごとにやり方があって、果実をそのまま売っている人もいれば、全部加工品にして売る人もいるし、もぎとり体験をして観光地にする人もいる。それは全部正解なんです。自分のやりたい農業が明確になったら、それに向けて助け合いながら頑張ればいい。

——そのときに仲間がいると心強いですね。

そうですね。西湘うみかぜふぁーむでは何人かの農家さんとチームを組んでいて、僕が飲食店などに営業に行くと、僕の商品だけではなくメンバーが作った商品も一緒に紹介できるんです。チームを組むと役割分担ができて、挑戦できることの幅も広がりますね。

大切なのは”縁”と”ユーモア”

——矢郷さんは農業を楽しんでいる印象ですが、楽しむ秘訣はありますか?

楽しいですよ! 僕は楽しむことにかけては天才だと思っているんですけど(笑)。秘訣は2つあります。1つ目は、まずなんでも楽しもうとすること。農業という仕事自体、ご褒美が多い職種だとは思っていません。収穫するときは楽しいですが、僕はそれ以外の作業はつまらないことの方が多いと思います。外仕事なので体力的にも過酷ですし。でも、つまらない作業でも楽しくしようと思えばいくらでも楽しくできちゃうんですね。みんなにも楽しんでもらうために、まず代表の僕が楽しむということを大事にしています。

2つ目は、会話で楽しむこと。空いてる時間に、高橋さんや中津川くんと昨日のテレビの話をしたり、お悩み相談をしたり、しりとりをしたり(笑)。喋りながらやっていると、精神的なストレスもけっこう減るんですよね。遊びに来てくれた人はすごい楽しいって言ってくれるので嬉しいです。お世辞かもしれないですけど…(笑)。

——いやいや、本当に楽しいんだと思います。僕もこのメディアを通して、農業の楽しい面やかっこいい面を伝えたいなと思っています。そうすることで農業のイメージを少しずつ変えていければいいですね。

ありがてえ…! 農業は閉鎖的な仕事というイメージが強いですが、そうじゃいけないと思っていて。働く環境は一番開放的なはずなんです。色々な人が農園に気軽に遊びに来て楽しめるようにしたい。だから僕は、矢郷農園に興味を持ってくれた人や会いたいって言ってくれた人には基本的にノーを言わないようにしています。

——それは普段から意識していることなんですか?

はい、意識しています。ノーを言ったら、そこから何も発展しないんですよ。その人がどんな人かも会ってみないとわからないし、今回の取材みたいに興味を持ってわざわざ足を運んでくれた人は、僕は大事にしたい。

この世には、会える人と会えない人がいるんです。僕たちは今こうやって会いに来てくれて話ができている。でも、アポをとっても、体調不良とか悪天候とかで会えない人もいるんです。だから、会えたというだけで縁がある人なんだなと思うんですよね。

——それは長年の経験から感じることですか?

そうですね。長年人付き合いをやっていて思いました。会えるか会えないかというのは、人を見るときの判断基準のひとつ。いいとか悪いとか、好きとか嫌いとかではなくて、自分と縁があるかどうかがすごく大事。縁がある人は大事にしています。

ところで、これ脂肪と糖の吸収を抑えるチョコレートなんですけど、食べたらちょっと痩せそうな気がしません?

——はい。

でも、チョコだからカロリーはあるじゃないですか。それでも痩せるんですかね?

——たぶん、太りますね。チョコの中ではあまり太らないという意味じゃないですか?

優しめのチョコってこと!? 僕、これをわざわざ買いに行ったのに…。

——え!? そうなんですか?

さっきお昼ごはんにカツ丼を食べて、脂肪と糖がいっぱい入っていたから、このチョコを食べて抑えようとしているんですよ。でも、太りますよね、きっとね。

——太りますね…。

あ、太るんですか。やっぱりそっか…だめじゃん…。

そんな楽しいひとときを提供してくれた矢郷農園。公式ネットショップでは、旬の果物や加工品を購入することができます。ぜひチェックしてみてください!

矢郷農園|公式ネットショップ:
https://yagounouen.official.ec/

矢郷農園|インスタグラム:
https://www.instagram.com/yagou_nouen/

藤井 叶衣

藤井 叶衣

1999年生まれ、岡山県出身。映画・ドラマなどの最新エンタメ情報サイトで企画・編集・ライティングを経験し、会社を辞めて神奈川県小田原市へ移り住む。すべての映画と、ほとんどの音楽と、ほとんどの本と、すべてのお酒が好き。あとは、星が綺麗な冬の夜が好き。

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