ファームハウスみどり・渡邉淳さん〜小田原でゼロから始めたひとり農業〜

ファームハウスみどりの「ひたむきなフルーツ農家」というキャッチフレーズを見て、生産品への愛であふれた農家さんを想像していたが、代表の渡邉淳さんにお会いして、いい意味でそのイメージが覆った。渡邉さんのお話を聞くと「ひたむき(意味:一途に打ち込む)」という言葉の真意を体感できる。渡邉さんは、農業に対してだけではなく、生きることに対してひたむきなのだ。

ファームハウスみどりの渡邉さんは、神奈川県の湘南〜小田原でキウイフルーツ、レモン、湘南ゴールド、黄金柑、ネーブル、不知火などを生産している農家さんだ。渡邉さんが作る果物の特徴は、無農薬なので皮まで安心して食べられるということ。2016年に就農し、ほとんどひとりで何種類もの果物を育てながら、ブログやYouTubeで情報発信を続けている。そんな渡邉さんの行動力に惹かれて連絡したところ、快く取材を受け入れてくれた。

今回はそんな渡邉さんに、就農してからのエピソードや心境について伺った。

たったひとりでゼロから始める農業

——まず、渡邉さん自身のことについて伺います。農業に携わる以前はどんなことをされていましたか?

音楽が好きだったので、20歳くらいのときからCD屋さんで働き始めて、CDのバイヤーをしていました。今でも音楽は大好きです。若いころはやっぱり自分の好きなことを仕事にしたいと思っていました。

でも30歳になって、生活のために絶対になくならない商売をしたいと思い、農業法人でアルバイトをしながら、農業の勉強をしました。そして、新規就農するために畑を探しました。

——ありがとうございます。次に、1つ目の畑を地主さんから借りたときのお話を聞かせてください。

たまたま荒れているキウイ畑を見つけたんです。その畑の隣に家があったので飛び込みでインターホンを押して、地主さんを紹介してもらって畑を借りることができました。けっこうイレギュラーな借り方だと思います。

それまでアルバイトでキウイの栽培を6年くらいやっていたので、ひとりでやっても大丈夫かなという自信はありました。

——新規就農して1年目はどのようなことをされていましたか?

1年目は農業法人でのアルバイトを続けながら、荒れている畑を切って直していました。農業の収入はほとんどありませんでしたね。

——収入が入るようになったのは何年目からですか?

2年目からですね。それは狙い通りでした。キウイの木を一から植えると、2年では採れないけど、荒れている畑を直せばそこに実がつくのはわかっていました。

——就農してから特に大変だったことを教えてください。

どんどん畑を大きくしているから、今が一番大変ですね。今が一番大変だけど、今のほうが面白い。歳をとってきて体は疲れますけど(笑)。

精神的に一番面食らったことでいうと、お金です。最初は軽トラックと草刈機があればできると思っていましたが、畑を大きくするにつれて作業場がなくなってきて、3年目くらいで事務所を買いました。さらに、大きな冷蔵庫を中古で買って自分たちで組み立てたんですが、土台が弱すぎて冷蔵庫が傾いちゃって。業者さんに頼んで作り直したんですが、100万円以上余計にお金がかかってしまいました。自分の判断ミスで借金が増えてしまったので、かなり面食らいました。

あとは、やっぱり畑が台風の被害を受けたりしたときは落ち込みますね。

——僕の祖父母も長野県でりんごを育てているんですが、今年は気温が高くてりんごが採れず困っていました。

ここ数年は本当に暑すぎますね。

「稼ぐ」という揺るぎない原動力

——災害やトラブルがたくさんあると思うんですが、心が折れないようにするために意識してることはありますか?

災害や冷蔵庫などのトラブルは大変だったけど、まだそこまで大したことじゃないんじゃないかな。もともと我慢強い性格だし。

それに、災害はどうしようもないことなので、考えても仕方がないと思います。畑に木が倒れてキウイが潰れてしまっても、僕にできることは木を切って処理することくらいしかない。大自然と対峙する商売なので、ある程度の諦めも必要だと思います。

——就農してから様々なトラブルを経て、心境の変化はありますか?

1mmもないです。お金を稼ぐために始めて、今でもその目標は全くブレません。そのブレなさには自信があります。

——畑をどんどん大きくしているのもお金を稼ぐという目標のためですか?

そうですね。今年はキウイの苗木を9本しか植えなかったんだけど、次は60本くらい注文しようと思っています。苗木にかかるお金も増えるけど、それは将来に向けての投資。

その根本にある気持ちはやっぱり「不安」です。農業はギャンブル性が高い商売で、10年後には生産品の価値が今より下がっているかもしれない。比較的相場が安定していて育てやすい果物を選んではいるけど、レバレッジを効かせておかないと生活できなくなるかもしれません。時間も土地もあるんだから、たくさん植えておかないともったいないなと思います。

——ほとんどの作業をひとりでこなすのは大変だと思いますが、その中でも楽しいことはありますか?

1年を通しても楽しいときは一瞬しかありませんね。5月や10月ごろは気候がすごくよくて、作業も気持ちいいです。そのぐらいの一瞬(笑)。あとは、木の剪定はやりがいがあって楽しいです。それくらいかな。仕事は楽しいこともあるけど、辛い瞬間のほうが多いからね。

——渡邉さんは無農薬や化学肥料不使用にこだわりを持っていますか?

あまりこだわりはないです。キウイは無農薬でも栽培できる果物だから無農薬でやっているだけで、どうしても無農薬のものが作りたいというわけではありません。

今植えているキウイは無農薬でできるんですが、もし木が病気で枯れそうになったら、そのときはたぶん消毒します。でも、そのときは必ずブログなどで正直に言います。時間とお金を投資したものが無駄になるくらいなら無農薬でなくてもいいかな、というくらいのポップなスタンスです。

——ブログやYouTubeで発信をしている理由を教えてください。

販売促進のためです。YouTubeはあまり頻繁には更新できませんが、見てくれる人がいるので続けていきたいですね。

——渡邉さんはとりあえずやってみるということを大事にしているんですね。これからの目標はありますか?

怪我なく目の前の生活をコツコツやって生きていければいいかなと思っています。

そのまま食べられるレモンをご馳走になりました

せっかくだし、レモン食べてみる?

——食べてみたいです!

そのまま飲めんべ。

——はい。スーパーのレモンと全然違う…!

生野菜にこのレモンと塩だけかけてもすごく美味しいし、揚げ物とか魚料理にちょっと入れるだけで風味が格段に変わるから、レモンはナイスな名脇役だよね。

——料理やお酒によって色々な使い方ができそうですね。渡邉さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!

何もないところからスタートした者同士、がんばりましょう!

渡邉さんのブログやネットショップもホームページに併設されています。ぜひチェックしてみてください!

ファームハウスみどり

ホームページ・ネットショップはこちら|https://farmhousemidori.com/

内山 恵太

内山 恵太

2000年生まれ、北海道出身。広告代理店で制作業務を担当した後、フリーランスのデザイナーとして独立。現在は、デザイナーとして活動する傍ら、神奈川県小田原市の150年以上の歴史を持つ柑橘農園の研修生として農業を学んでいる。果物が大好きで、特に柑橘が好き。おうちにBarのような酒棚をつくるほど、カクテルを作るのがすき。

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