某日、「第1回農園カクテル披露会」が行われた。場所は神奈川県小田原市江之浦にある八木下農園。八木下農園で採れた果物をその場でカクテルにし、園主の八木下敏雄さんに飲んでいただくという企画。八木下さんはカクテル披露会のあとも畑仕事で車を運転するので、もちろんノンアルコールで。
カクテルを作るのは、元バーテンダーのK。現在は農業研修生として柑橘栽培を学んでいるKが、再びシェイカーを握る場所に選んだのは農園。採れたての果物を使って農家さんたちに美味しいノンアルコールカクテルを飲んでほしいという思いから、この企画が始動した。彼の手によって、いったいどのようなカクテルが生み出されるのだろうか? Kのカクテルを飲んだ八木下さんの反応は…?
「いらっしゃいませ。本日は私のお任せでノンアルコールカクテルをご提供させていただきます」
思わずニヤニヤする八木下さん。こうしてKのカクテル作りがスタートした。
Kはまず採りたてのレモンを絞る。八木下農園のレモンは大きくてたくさん果汁がとれる。
そしてシェイカーに絞ったレモン果汁とシロップなどの材料を投入。
シェイカーの中身を軽く混ぜようと思ったK。しかしここでピンチ! マドラーを持ってくるのを忘れてしまったようだ。さて、どうしたものか。
「なんか、いらない枝とかあります…?」
「これ使っていいよ!」
そう言って八木下さんは慣れた手つきで宿毛小夏の木から枝を切り、Kに手渡した。とっさの機転と八木下さんとの連携プレーでKはピンチを脱出。Kはなんだか嬉しそうに枝を使ってまぜまぜするのだった。
そして、シェイカーに氷を入れて蓋をとじる。いよいよ一番の見せ場だ。
シャカシャカシャカシャカ…
海、山、空に響き渡るシェイクの音に耳をすませて集中するK。アルコールは入っていないが、これだけで酔えそうなほど気持ちのいい音だ。
そして氷が入ったグラスに透き通るブルーのカクテルが注がれる。八木下さんからも思わず「おお〜」という歓声があがる。
炭酸水を注ぎ、再び枝でくるくると混ぜる。
さらにもうひとつの見せ場。おろし器を使って八木下農園のレモンの皮を削り入れる。こうすることで飲むときに爽やかな香りがふわりと立ち上がる。
「もうパティシエじゃん!」
八木下さんからの褒め言葉に嬉しさを隠せない様子のK。
最後の飾り付けは贅沢に。輪切りにしたレモンと、貴重なベルガモットの新芽と、レモンの花を添えてできあがり。
「“江之浦ブルー”でございます」
八木下さんはグラスを手に持ち、丁寧に香りを嗅いでカクテルを一口ごくり。
「うん、美味しい。香りもすごく豊かで、さっぱりしていて美味しいです!」
Kも一口分けていただいてごくり。
「うまい!!!」
ブルーのカクテルは美しい海を、ベルガモットの新芽は山を表現しているというK。江之浦の恵みを象徴するレモンを添えて、海と山に囲まれた江之浦という土地の真価を視覚と味覚で感じられる一杯となった。
この日、Kは2つのことを学んだ。太陽の下で飲むカクテルはとても美味しいということ。そして、柑橘にはまだまだたくさんの可能性が秘められているということ。
江之浦ブルーの飾り付けに使ったレモンの花やベルガモットの新芽は、見た目だけでなく香りの奥行きを持たせ、シンプルなカクテルを唯一無二のものにしてくれる。みなさんも柑橘カクテルを作るときは花や葉まで使い、香りを存分に楽しんでみてはいかが?