【映画と果物】ジャック・スパロウのライバルはりんごが大好き『パイレーツ・オブ・カリビアン』

積もるりんごへの思い…

一流の航海士で優れたリーダーでもあるが、ずる賢くて乱暴で汚らしい。それでもなぜか憎めない。人が海賊と聞いて想像する海賊にもっとも近く、自然と周囲を惹きつける魅力的なキャラクターがいる。

海賊ジャック・スパロウの冒険を描く映画シリーズ『パイレーツ・オブ・カリビアン』で、悪役ながら根強い人気を誇るヘクター・バルボッサ。シリーズ1作目『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』でジャックの敵として登場する。

18世紀カリブ海。海賊船ブラックパール号が港町を襲う。海賊たちの狙いは、総督の娘エリザベス・スワンが持っているひとつの特別な金貨だった。エリザベスは必死に抵抗するも海賊たちに連れ去られてしまう。エリザベスに思いを寄せていた青年ウィル・ターナーは、町の牢屋に投獄されていた海賊ジャック・スパロウに協力をあおぎ、共にエリザベス救出へと向う。

港町を襲った海賊船ブラックパール号を率いる船長がバルボッサだ。バルボッサたちはある呪いをかけられて不死の体になっていた。呪いのせいで空腹を満たすことはできず、お酒にも酔えず、心も満たされず、それでも死ぬことはできない。その恐ろしい呪いを解くことができるのが、エリザベスの金貨だったのだ。

バルボッサは「呪いが解けたらまず飽きるまで存分にりんごを食う」と宣言する。呪いにかかる前はりんごが大好きだったのだろう。途中、ジャックがバルボッサの船に捕まったとき、呑気にりんごを食べるジャックをバルボッサは恨めしそうに眺めていた。

念願の丸かじり

悪役はたびたびりんごを手に持っている。『アラジン』の悪役​​ジャファーや、『ハリー・ポッター』シリーズのドラコ・マルフォイもりんごを丸かじりしていた。こちらを嘲笑うような表情で硬いりんごを噛み砕く悪役たちの姿には、ワイルドで危険な魅力がある。

りんごはエデンの園でアダムとイブに食べられたときからずっと「禁断の果実」として解釈されてきた。ヘビにそそのかされて果実を食べてしまったふたりは楽園から追放され、人間として限りある命を生きることになった。『パイレーツ・オブ・カリビアン』でも、バルボッサが人間としての限りある命を手に入れる瞬間、そこにはりんごがあるのだ。

バルボッサとジャックが剣を交えるクライマックス。ジャックがバルボッサの胸に銃弾を撃ち込むと同時に、バルボッサの呪いが解ける。ついに感じることができた自分の体温や感覚。地面に倒れたバルボッサの目には安堵の色がにじみ、その手からは青いりんごが転がり落ちていった。

こうしてバルボッサを倒しブラックパール号の船長となったジャックは、シリーズ2作目『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』で新たな敵に立ち向かうのだが、映画のラストで海の怪物クラーケンに飲み込まれてしまう。ジャックの生存を信じ、救出への旅路に備える乗組員たち。そして、その航海の指揮に名乗りでた人物の顔を見て、乗組員たちは幽霊を見たような表情を浮かべる。そこにいたのは、りんごを丸かじりして高らかに笑う旧敵だった…。

バルボッサはその後もジャックの仲間たちと冒険を共にし、シリーズに欠かせない重要なキャラクターとなっていく。お酒を片手に肉や魚を豪快に頬張る海賊も見ていて清々しいが、ひとつのりんごを噛み締める海賊も粋なもの。みなさまも生を実感したいときは、ワイルドにりんごを丸かじりしてみてはいかがでしょうか?

『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』©2003 DISNEY ENTERPRISES,INC.

藤井 叶衣

藤井 叶衣

1999年生まれ、岡山県出身。映画・ドラマなどの最新エンタメ情報サイトで企画・編集・ライティングを経験し、会社を辞めて神奈川県小田原市へ移り住む。すべての映画と、ほとんどの音楽と、ほとんどの本と、すべてのお酒が好き。あとは、星が綺麗な冬の夜が好き。

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